猪子研究室


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■ゲノム多様性解析

両親から受け継いだ遺伝情報の多様性が、「病気のかかりやすさ」や「移植の成否」を大きく左右していると考えています。そこで、病気や移植における「診断、治療、予防、創薬」から将来的には「学習、記憶」などの高次生命現象の分子レベル的な理解を目指したゲノム多様性解析を勢力的に行っています。

■比較ゲノム学

進化学的に数多くの遺伝子が保存され、他に類を見ないほど高い遺伝子密度と多様性を誇るMHC領域は、我々が目指す「ゲノム進化の解明」にとって絶好のモデル領域になると考えています。現在、我々は椎名グループとの連携により哺乳類、鳥類、は虫類、魚類等をはじめとするMHC領域のゲノム配列を比較解析することで「ヒトが如何にして高等な免疫系を獲得するに至ったのか」という経緯を追求しています。将来的にはその知見をもとにゲノムワイドに展開してゆきたいと考えています。




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ゲノムワイドな相関解析による疾患関連遺伝子の同定と創薬

ヒトゲノムの配列、多型情報の蓄積により、さまざまな疾患感受性遺伝子、特に有病率の高い生活習慣病などの多因子性疾患の発症に関与する遺伝子のポジショナルクローニングによる同定への期待が高まっている。 当研究室では、本態性高血圧、関節リウマチ、IgA腎症、糖尿病性腎症、尋常性乾癬、重症円形脱毛症、気管支喘息、強皮症、ベーチェット病、緑内障、強度近視、格子状変性網膜剥離、GVDHの疾患関連遺伝子を同定するために、主にゲノムワイドに分離、収集した高密度のマイクロサテライトマーカーやSNP(Single nucleotide polymorphism)を用いて関連解析によるマッピングを行っている。
現在までに数種の疾患について、疾患感受性遺伝子領域を同定し、さらにいくつかの疾患については疾患関連遺伝子も同定した。またそれらの疾患関連遺伝子については、創薬の標的分子として新薬の開発を目指した機能的な解析も行っている。

HLA領域のゲノム多様性と疾患感受性及び移植後との関連

白血球の血液型とも言える HLA (human leucocyte antigen:ヒト白血球抗原)は、移植の際の拒絶に大きく関係する。それは、HLAが組織適合性抗原として働き、生体防御反応の根幹を担う、「免疫」に重要な役割を担っているからである。この HLA 抗原を構成する遺伝子が存在する HLA 領域は、その他に 100 種以上もの疾患遺伝子の存在が予想されている興味ある領域である。当研究室では、このような HLA 領域内の疾患遺伝子を漏れなく効率的に同定するため、この領域のゲノム塩基配列をもとに、遺伝マーカーとしてマッピングに有効な 88 個の多型マイクロサテライトを HLA 領域内に高密度 (1個/41kb) に設定した。これらの遺伝マーカーの多型解析を中心に、日本人のゲノム多様性と疾患感受性解析を、また、遺伝子の多型と移植予後に特に問題となる GVHD (graft versus host disease:移植片対宿主病) 発症との関連を解析することで、マイナー組織適合抗原遺伝子の検索をゲノムワイドに行っている。これらの解析を総合的に進めることにより、ゲノム多様性と各種疾患との関連を明らかにし、さらには移植成績の向上に貢献することを目指している。

疾患感受性遺伝子の多型分析とその手法の開発

マイクロサテライトマーカーやSNPを用いた関連解析により同定された疾患感受性遺伝子を実際に臨床応用していくために、その多型分析と分析する手法の開発を行っている。 現在、付属病院各診療科、基礎医学系研究室、他大学との共同研究により、易罹患性や病態進行の予測ツールを開発している。薬剤投与による副作用と、HLAを含む遺伝子多型との関連についても分析している。

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医用実験動物としてのブタ利用拡大を目指したMHC 領域の解析

ブタは、解剖学的・生理学的にヒトとの類似性が高く、特に小型で取り扱いの容易なミニブタは、移植実験をはじめとする中型実験動物やヒトメラノーマの疾患モデル動物としても注目されている。当研究室では、ブタからヒトへの異種移植を含む各種の移植実験や実験動物としてのミニブタの利用の可能性を追求するために、 MHC固定ブタの作成と免疫遺伝学的解析、並びにMHC遺伝子やマイクロサテライトマーカーを用いたヒトとブタの MHC 遺伝子領域の比較ゲノム解析を行っている。

鳥類(ペンギン、コウノトリ)の MHC 遺伝子の多型性解析

鳥類の MHC 遺伝子の研究は、ニワトリやウズラなどの家禽ではゲノム解析や多型性解析が進んでいるが、野生動物であるペンギンやコウノトリについての研究報告はない。 当研究室では、ペンギンやコウノトリのMHC 遺伝子の多型性解析により、これらの鳥類の系統分類や個体識別を行い、種の保全に役立てるとともに、他種の MHC 遺伝子の多様性との比較ゲノム解析による鳥類の進化過程の解明を目指している。

霊長類、げっ歯類、鯨類、魚類、頭索類、尾索類などに関するMHC 遺伝子群のゲノムシークエンシングと構造解析

 MHC 領域の進化過程の道筋を明らかにするために、上記研究課題の解析結果と「研究テーマ」の項目で述べた哺乳類、鳥類、魚類、は虫類などの様々な動物種の MHC 領域あるいは MHC 祖先領域の解析結果を総合した比較ゲノム解析を椎名グループとの連携により行っている。

非古典的MHCクラスI 分子の役割についての研究

MHC分子にはいわゆるMHC分子として教科書的な役割を果たす古典的クラスI分子(以後Ia)のほかに、その構造はよく似ているが、多型性を示さない非古典的クラスI分子(以後Ib)がある。 マウスではIb分子をコードする遺伝子は第17番染色体のQ、T、Mの3領域に渡って存在し総数は30を越える。これらのIb分子については、その詳細な遺伝子構造、発現パターン、各分子の機能などは一部の分子を除いて未だ解明されていない。 現在までにQ、T、M領域に散在するIb遺伝子を検索し、それぞれに特異的なRT-PCR解析を通して、各遺伝子の組織特異的な発現プロファイルを決定した。 またそれらIb遺伝子のプロモーター領域を解析することにより、これらのIb遺伝子が領域特異的な発現をしていることを証明した。 今後、各Ib遺伝子のノックアウトマウスの作製を通して、各Ib分子の役割を解明する。

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